中文熟考

中日翻訳者が綴る日々の記録

2003年のジョニー・デップとカリブの謎

伊集院光さんが「100分de名著」きっかけで「ピノッキオの冒険」の魅力にはまり、

ディズニーランドのアトラクションに乗りたい、

という話をラジオでしていた。ディズニーの初期映画は本当に原作が強い。

ピーターパンなんて大人になりそうな子供を●してたんですよ。

ほんのり感じる闇こそが、いい歳の大人も惹きつけるディズニーの真の魅力だ。

この噴水が目印のトイレにはよく行くのだが…

予想外に怖いアトラクションといえば「白雪姫」の方がメジャーな気がする。

白雪姫が1回しか出てこなくて、魔女ばっかり出てくる。

初期ディズニーの姫たちはステレオタイプで個性がないので、

イマジニアたちも つい悪役の方に肩入れしてしまったのだと思う。

そもそも魔女うんぬんより、オーディオアニマトロニクスについて、

怖いという意見も多いと聞くし、都市伝説もたくさんある。

誰でも一度は想像したことがあるだろう。イッツアスモールワールドで歌い踊る大量のオーディオアニマトロニクスが、

閉園とともに静まり返る様子を…。

暗闇の中で一体だけ目を開けて動き出したとしても、まったく不思議はない。

魔法の国は、喜びから恐怖まで、すべてイマジネーションでできているのだ。

カリブの海賊って何語で喋ってる?

カリブの海賊、待っている場所にあるこの階段も怖い

さてTDLオーディオアニマトロニクス最高傑作は

個人的にはオープン当時からある「カリブの海賊」だと思うのだが、

このアトラクションについて胸に引っ掛かっていることがある。

それは海賊たちが何語を喋っているのか、という問題だ。

80年代に乗った幼少期の記憶では、テーマ曲「Yo, Ho! (A Pirate's Life For Me)」も

海賊のセリフもすべて日本語だったと思うのである。

街を襲うシーンでは「飲め、飲め」「捕まえろ、捕まえろ」と日本語で叫び、

「ヨーホー、ヨーホー、おいらは海賊♪」と歌っていた、と。

10代、20代を過ごした1990~2000年代は記憶があいまいだ。

友人とか気になる男子とかと乗っていて集中していなかったのか、

ジャック・スパロウが登場してからは、ジャックの記憶しかない。

映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジョニー・デップ

ちょっとどうかしているほどイケメンで、

いつしかカリブの海賊は「一番輝いていた頃のジョニーに会える場所」になってしまった。

目が合っちゃった!(写真の腕)

ところが子供ができて、十年ぶりにカリブの海賊に乗ったら、

あれ?日本語が聞こえない?もしかして言葉もリニューアルしたのかな?と気がついた。

同世代の人には、「カリブの海賊って昔日本語でしたよね?」と聞きまくった。

「いや、ずっと英語だ」という人も、「日本語だった気もする」という人もいた。

歌やその他の場面はともかく、有名な「鍵のシーン」だけは、どうしても譲れないのである。

牢屋に閉じ込められた海賊たちが、カギを咥えた犬に向かって必死に話しかける。

「おいでおいで」「骨があるよ」

絶対に日本語でそう聞いていた記憶があるのだ。

けれどいくら調べても、過去に日本語だったという記事も、

音声リニューアルがあったという事実も出てこなかった。

東京ディズニーリゾート公式ブログより画像をお借りしました(写真の腕)

謎を解くきっかけは意外なところに転がっていた。

休日にYouTubeで「ディズニーランド一周BGM」という動画を見ていた時のこと。

カリブの海賊の音声もそのまま収録されていて、海賊が歌ったり騒いだりしている。

そこを通りかかった息子が衝撃の一言を放ったのである。

「あれ、カリブの海賊って英語だったっけ?日本語じゃなかった?」

しかもその後に続けて話した言葉に、背筋が凍った。

「牢屋の前の犬に、おいでおいでって言ってるじゃん」

やめてーーー!!!ホーンデットマンションの百倍怖い。

自分と我が子にだけ聞こえる「おいでおいで」ほど、怖い言葉はない。

冷静に理由を考えてみよう

その晩は頭まで布団をかぶって眠り、トイレに行けないほど怖かったが、

翌朝お日様の下で考えると、ちょっと冷静になってきた。

たぶん下の3つの説で、だいたい説明がつくのではないだろうか。

①こっそり日本語が流れている説

②発音が日本語っぽく聞こえる説

③頭の中で日本語に翻訳している説

で、二カ国語が聴き取れるようになったいま、③が有力だと思っている。

なぜなら人は聞き取れた言語を母語にして、

母語の方で記憶を定着するというのがわかったからだ。

日常会話でもたとえば台湾人の夫との会話を後で振り返ってみると、

会話の内容は覚えているが、日本語と中国語、どちらだったかは再現できない。

私なりの結論

魔法をかけるのが得意なディズニーだけに①の可能性もあるし、

実際には②と③が混在している、というのが真相だと思うのだが、

ポイントは私も小学生の時の記憶として「日本語だった」と思っている点だ。

子供にはわかりにくい他のシーンに比べて、牢屋でカギを欲しがる場面は状況やセリフが連想しやすい。

「おいでおいで」は、その最たるものだ。

「おそらく聞き取れた英語を脳内翻訳して、なおかつ状況から自動補正して日本語として記憶している」

というのが私の結論である。いやー、人間ってすごいですね。

一応の答えを出さないことには、怖くてもう二度と乗れない。

2003年のジョニーに会えなくなるのがイヤで、理屈をこねまわしてみました。