中文熟考

中日翻訳者が綴る日々の記録

ディズニープラス「台北女子図鑑」の感想を率直にお伝えします

台北女子図鑑

2022年/全11話

原題:台北女子圖鑑

ディズニープラスで配信中。日本語字幕あり。音声は中国語のみ。

 

 雑誌「東京カレンダー」の連載をドラマ化した「東京女子図鑑」が今の東京に生きる女性を描いて話題となり、中華圏でも続々とリメイクされたという記事は以前にも書いた。

 両作の放送から4年の時を経て「台北女子図鑑」が誕生し、ディズニープラスで放送中と聞いて見始めたのだが、全11話中9話までなんとか頑張って見たけれど、あまりにつまらなくて挫折してしまった。残念。多少のネタバレもあるので、これから見る方はスルーしてください。

ヒロインに魅力がない…

台北女子図鑑」でヒロイン・イーサンを演じるのはグイ・ルンメイさんという女優なのだが、まずこの人が、台湾では大物レベルの映画女優なんである。デビュー以降映画を中心に活躍し、ドラマ出演は14年ぶりだとか。

 満を持してのキャスティングなのに、なんとなく魅力がない。最初から毛だるい感じで、大卒の若者期を演じていても、若さゆえの初々しさや危うさがないのだ。実年齢に近い30代を演じる頃には違和感が薄れていたから、これは女優の格がかえって災いしたのかも。

 ググったら台湾でも酷評の嵐だったのだけれど、グイ・ルンメイを叩く人は少なくて意外。服装やヘアスタイルもどんどん垢抜けてほしいのに、あまりうまくいっていない気がするのだが。

台北と台南の対比に無理がある

台中にしか止まらない最速便だと1時間半かからない

 台湾のメディアで一番批判されていたのが、「台北(都会)」と「台南(田舎)」という安易な対比だ。「東京女子図鑑」で主人公が憧れる東京と忌み嫌う地元・秋田という構図が、台湾という小さな島ではやっぱり難しかった模様。

 台北から台南まで、新幹線に乗れば1時間40分。東京から京都より近いというのがね。イーサンが台北の有名な観光地「永康街」を出て、隣の「永和市」に引っ越すときにも都落ち感を出していたけれど、「永康街」から台北に一番近い永和の最寄り駅まで地下鉄で2駅だから、ちょっと説得力がない。

 8話にして台北101のある「信義区」も高級住宅地の「大安区」も住んじゃったけど、どうするんだろうと思ってたら、9話でシンガポールに行っちゃった…。もっと台北の魅力が見たかった。

恋愛?仕事?何がしたいのか不明

 同じ中華圏でも「北京版」や「上海版」の主人公は猛烈に仕事を頑張り、経済的に自立し、ステップアップの過程で恋愛相手の社会的地位や容姿もグレードアップしていた。

 その点イーサンはどっちつかずの「東京版」寄りにしたんだろうけど、それにしても何事にもフワフワしていて、仕事に奮闘している描写も少なく、なにゆえ部長にまで出世できたのか分からない。

 恋愛に対しても特別上昇志向には見えず、言い寄られては受け入れて、やっぱり違った…を繰り返す。ただ男にだらしないタイプにも見えてしまって、この点もあまり共感できなかった。

 最終的にはずっと支えてくれている台南出身の幼馴染と落ち着いてほしいし、そんな匂いもするのだが、身近な存在に気づくまでの恋愛で何を学んだかがいまいち見えてこないのが残念だ。

台湾らしい文化や表現には出会える

 「東京」「北京」「上海」と3都市それぞれに楽しめたし、「台湾版」も楽しみにしていただけに、期待が外れて文句ばかりになってしまった。

 とはいえ映画「不能說的秘密」では透明感あふれる学生だったグイ・ルンメイがすっかり大人の女性になり、アンニュイな雰囲気を出しているのはいいなぁと思ったし、最近は中国国内の作品ばかり見ていたので、台湾の街並みや独特のストレートな話し方も懐かしかった。

 最後に台湾らしい表現を1つ。

「少在那邊 妳不要以為我不知道 妳跟慧如兩個人晚上偷偷跑出去玩」

 これはドラマ序盤でイーサンが台南料理の店をやっている同郷の人とお付き合いしていた頃の、幼馴染との会話。「彼と簡単に別れたりしないわ」というイーサンに向かって幼馴染が言うセリフだ。

 「少在那邊」は辞書で調べても意味が出てこないが、口語としてはよく使う表現。

 ネイティブ曰く「少來了(やめて)、別裝了(うそつけ)」というような意味で、わりと幅広く使う。中国では同じ場面で「少来了」を使うことのほうが多いそうだ。

 セリフの文脈だと、「よく言うよ」「そんなこと言って」くらいの日本語訳が適当かなと思う。

「よく言うよ 慧如とコソコソ夜遊びしてるくせに」

 頭の中でこんな風に翻訳しながら見ていると、内容的にイマイチなドラマでも楽しめるセリフがある。そこはちょっと得した気分だ。