中文熟考

中日翻訳者が綴る日々の記録

「華燈初上」にのめり込んだ話

 2021年の台湾ドラマアワードを総ナメにしたと聞いてから、見たい見たいと思っていた本作。見始めたら止まらなかった! ドラマをイッキ見して寝不足なんて、何年ぶりだろう。脚本、キャスト、演出どれも最高の傑作だった。シーズン3までの連作で1話約50分、全24話と若干長いけれど、ムダなシーンはほとんどないので、あっという間、怒濤の1200分だ。

 客演のゲストがとにかく豪華なのだが、とにかくキャスティングが最高だった。若作り感が否めず苦手だった林心如(ルビー・リン)もハマり役だし、大陸ドラマでも大人気の楊佑寧(トニー・ヤン)もやさぐれた刑事が似合いすぎる。「國民男友(国民の彼氏)」と呼ばれるのも納得の色っぽさ。クラブ「光」の女の子たちは、80年代メイクも相まって実在のホステスにしか見えない。

 台湾の知人から勧められて、「林森北路(台湾の歌舞伎町みたいな街)を舞台にした、クラブのホステスたちが主演のサスペンスだよ」と聞いていたので、「黒革の手帖」みたいな悪女の話かと思っていたら、殺人現場から幕が開ける。犯人はおろか、シーズン1の中盤まで被害者さえ誰なのか明かされない。女達の日常と人間関係を中心に描きながら、視聴者の注意を最後まで引きつける脚本は本当に見事だった。

「華燈初上ー夜を生きる女たちー」

2019年/全50話

原題:華燈初上(夜の帳が降りて、明かりが灯る)

Netflixで配信中

「華燈初上ー夜を生きる女たちー」https://www.netflix.com/title/81477952

 性別でどうこう言うつもりはないが、女心の描き方が見事なこのドラマを男性脚本家が手がけているというのは意外すぎたので、思わず脚本家の杜政哲についてネット記事を漁ってしまった。「16個夏天」などヒット作を手がけるキャリア20年以上のベテランで、プロデューサーでもある林心如と数年前から本作の構想を練っていたらしい。

專訪│《華燈初上》編劇第一次寫推理劇就掀緝兇熱潮!杜政哲揭創作秘辛:兇手換過很多人 

 リンク先のインタビューによると、最初は「夜の女の成長物語」だったという構想を練っていくうちに、サスペンスを軸にしたシナリオに変更したそうだ。杜政哲の豊富なキャリアの中でも推理ドラマは初めての挑戦だったので、推理作家協会から顧問を呼んで監修してもらった、とある。構想時には犯人を何度か変えたものの、第1話のシナリオを完成させた瞬間には確定し、以降はブレずに話を進めたとのこと。「勝ちに不思議の勝ちなし」というが、面白い脚本にはちゃんと理由があるのだと分かる裏話だ。インタビュアーが本作の魅力をズバリまとめてくれていた。

「もともと緻密な人物描写に定評のある作家のシナリオに、整合性のある骨太のサスペンスを絡ませたことで、相乗効果を生んだ。登場人物の愛情、怒り、嫉妬、後悔といった感情全てが殺人の動機となり、推理がより難しくなった」

 杜政哲はドラマの成功について、「天時地利人和的成功(さまざまな要素がかみ合って生まれた成功という意味の孟子の言葉)」と言っている。名作とはそういうものなのだろう。どこまでが計算なのか、男性歌手の「月亮代表我的心」がこんなにも見事に女心をあぶり出すとは。サスペンスとしてイッキ見したあとは、登場人物一人ひとりの懸命な生き様に寄り添って、じっくり見直したい。