中文熟考

中日翻訳者が綴る日々の記録

これだけは見ておきたい 中国ドラマ時代劇 その②

必見の中国時代劇の2本目は、こちらもブームは去ったが根強い人気の「宮廷の諍い女」、中国版「大奥」です。私が台湾に移住した2011年に中国で放送がスタートし、一大ブームを巻き起こした。清代の後宮が舞台であり、第5代皇帝・雍正帝をめぐる後宮の女たちは大部分が実在の人物で、ヒロインが成り上がったことも事実。だが、史実にはドラマのような黒幕は存在しないし、女たちの末路も大いに脚色されているようだ。

一夫多妻制が生んだ女たちの権力争い

宮廷の諍い女

2011年/全50話

原題:甄嬛传/后宫·甄嬛传

Amazonプライムで日本語吹替版を配信中。プライム会員なら無料で全話視聴できる。DVD-BOXも発売中。

三国志曹操を好演した陈建斌が皇帝を演じている。陈建斌の格を知る中華圏の人々ならまだしも、皇帝を巡る女たちの争いなので、「皇帝がカッコよくない」ということに不満を持った方もおられるだろう。当初この役は別の俳優がキャスティングされていたそうだ。

吴秀波

それが吴秀波で、遅咲きのダンディ俳優として大ブレイクした人気スターだった。2017年には同じ三国時代を扱った「三国志 ~司馬懿 軍師連盟~」で主演を演じた。過去形なのは2019年に不倫スキャンダルを起こして人気が低迷したからだ。愛人が暴露したとかで、アンジャッシュ渡部もビックリの消え方だったそうだが、当時は人気者でスケジュールが合わず、「宮廷の諍い女」には出演できなかった。確かに色気のある俳優だから、この人が雍正帝を演じていたら女同士の諍いにもまた違った趣が出たかもしれない、とは思う。

とはいえ、時代のシステムとして1人の皇帝を大勢の女たちが取り合っているだけなので、雍正帝がイケメンだったり好色だったりする必要はない。むしろ純粋な1人の皇后を忘れられず、後宮通いに消極的な皇帝として描かれているから、陈建斌の演技で充分説得力があったなと思う。ヒロインに横恋慕するイケメン弟との対比も際立つしね。

ドロドロした諍いといっても、単なる女同士の醜い争いではなく、それぞれ信念を持った「処世術」の闘いであり、背景に大きな派閥争いが隠れていることから、実は社会を生き抜く現代人にまで通じる普遍的なテーマを扱っている。主人公の甄嬛はもちろんだが、その他の女たちも必死なのだ。家柄、知性、色香を総動員して皇帝の気を引き、後宮で生きる力をつけていく女たちの強かさに、観る方もだんだん力が入ってくる。

美しすぎる悪女たち

華妃役の蒋欣にうっとり

物語も芯があって飽きさせないが、清朝時代劇はセットも衣装も豪華絢爛で、それだけでも目の保養になる。おまけに出てくるのは美女ばかり。なかでも出色なのが、皇帝のお気に入り・華妃を演じる蒋欣。私のイチオシドラマ「欢乐颂」も代表作だが、現代劇より時代劇の方が似合う顔をしている。陶器のような肌、媚びても怒っても美しい八の字眉、小づくりで整ったパーツ。これぞ歴史に残る美女顔という貫禄だ。皇帝を思うあまり、主人公に胸糞悪い言動を繰り返すのだが、悪女なのに醜く見えないのがすごい。

本人のインタビューによると、最初監督に呼ばれた時は、曹貴人という脇役の候補だったらしい。監督に直談判して華妃のを演じてみせて、その場で役を勝ち取ったと話していた。曹貴人は脇役といえども頭の切れる重要人物だったが、頭で勝負するよりも、美しさと愚直なほどの一途さで皇帝を魅了する華妃の方がハマっている。子役出身らしいが、この作品まであまり目立った活躍がなかった、というのがウソのようだ。10億も人がいると、これほどの美女も埋もれてしまうのだろうか。

現代では信じられないような価値観もありながら、今も昔も出産という生理現象に人生を左右される女たちの運命に、女として母として考えさせられもする。妃たちの行く末が気になって、長いと思っていた50話があっという間に過ぎてしまった。これから見る方たちが羨ましい。美しい女たち、そして絶対権力を持った皇帝の悲しくも華やかな人生をどうぞ楽しんでください。