Twitterである方がオススメしていた「好事成双」を見始めたら、主演が张小斐(チャン・シャオフェイ)という女優さんで、そういえばこの人の映画が大ヒットしていたなと思い出しました。「こんにちは、私のお母さん」という邦題で日本でも公開され、NHKラジオ講座の題材にもなった作品です。
あらすじ
大学合格の祝賀会を終え、母娘で自転車に乗って帰宅する途中、李焕英(リー・ホワンイン)と贾晓玲(ジア・シャオリン)は交通事故巻き込まれてしまう。意識不明となった母を前に、何一つ親孝行できなかったと後悔に打ちひしがれる晓玲は、泣き疲れて病院の中をふらふらと歩くうちに、突然知らない街へと舞い降りる。 目が覚めるとそこは自分が生まれる前の1981年で、目の前に若かりし頃の母・焕英が現れ…。
感想など
タイムスリップの王道で、子供が親の恋愛を助けようとする展開も、バック・トゥ・ザ・フューチャー以来の伝統的手法です。ですが、配給チケットでテレビを買うのに順番争いをするシーンや、結婚にも職場の上司の意向が大きく働いている様子など、背景となる社会が、現在の中国と大きく違うことがよく分かり、その変化を強調するのにタイムスリップが効いていると思いました。「怪しい彼女」という映画でも思いましたが、同じタイムスリップでも、激動の近代中国は変化のインパクトが大きいです。
そんな時代の動きを背景に描かれるのは親子の愛という普遍的なテーマなのですが、この母娘は自分がどうなっても相手を幸せにしたい、という自己犠牲の気持ちがとても強い。マーティが自分の存在を守るために、なんとか両親をくっつけようとするのとはまったく違っていて、晓玲は「自分が母の子供じゃなければ、母はもっと幸せだったはず」と考えて、別の男性と結婚させようとします。それは単純な“親孝行”とはちょっと違うのではないかと思いました。
あくまで個人的な感想なのですが、こうした精神は、晓玲が一人っ子だということも無関係ではないのかなと思いました(中国の一人っ子政策は1979年からスタート)。私自身も一人息子を育てているのですが、妹のいる自分が子供だった頃とは親子の関係がだいぶ違うなと感じています。時代もあるでしょうが、一人っ子に対しては、親としてしつけや養育をするだけでなく、趣味の話や友達の話を聞いたりして、兄弟の役割も同時に担うような感じなのです。同性同士だともっと近く感じて、この映画の母娘のように仲がいいと、自分の分身のように思えてくるのかもしれません。
言葉は違っても、親の思いは…
子を持つ親として、私が一番感情移入したのは母親である焕英です。優しいセリフにあふれた本作ですが、一度だけ焕英が贾玲にトゲトゲしい言葉を投げかけます。
「你什么时候让我高兴(あなたはいつ私を喜ばせてくれるの?)」
これは母としての本心ではなく、がっかりした瞬間の失言だったと思うのです。ラストまで見ると、タイムスリップを引き起こしたのは晓玲の思いではなく、焕英の後悔だったのではないか、とすら思えます。
そのことを感じたのが、焕英が将来子供を持ったときの話をするシーンです。美人で成績優秀な“理想の娘”を語る晓玲をさえぎって、焕英は言います。
「我的女儿,我就让她健康快乐就行了「(私の娘はね、健康で幸せならそれでいいの)」
サラリと言うセリフですが、ラストまで見たあとにもう一度振り返ると、ものすごく胸に沁みてくる。きっと焕英は言いたかったのだと思うのです。
「你什么时候都让我高兴(あなたはいつでも私を喜ばせてくれるわ)」
ほんの一文字違いで、伝えたい本当の思いがあったのではないかと思いました。
監督・脚本・主演の贾玲(ジア・リン)は喜劇女優ですが、母が突然他界してしまった体験を基に、この映画ではじめて監督に挑戦したそうです。中国では旧正月に公開され、予想外の大ヒットとなった本作。私も年末には実家に帰って、母に見てもらおうと思います。