岩井俊二監督の「ラストレター」(2020年)の中国版です。
といってもいわゆるリメイク版ではなく、同じ小説を題材に、岩井監督自らメガホンを取った作品だそうです。
亡くなった姉・之南(ジーナン)の代わりに中学の同窓会に参加した之華(チイファ)が、姉と間違われて同級生の尹川(イン・チャン)に再会するところから物語は始まります。連絡先を交換した2人ですが、メッセージを之華の夫に見られてスマホを壊されてしまったため、之華は之南を装って手紙を送ることにします。奇妙な文通には、やがて姉妹の娘たちも加わり、亡き之南を通した交流が生まれ始め…。
最初は1件のメッセージでスマホを壊すなんて、とんでもないモラハラ夫だと思いましたが、之華の手からスマホが奪われるということがすごく重要だったのですね。「スマホがないから手紙を書かざるをえない」という装置としての役割よりも、「スマホのない時代の空気に戻る」という点ですごく大きな意味があったんだなと思いました。
空気が大事な映画だけにもったいないと思ったのが、学生時代の尹川がジェットストリームを使って手紙を書いていることです。おそらく90年代の設定なので、まだ発売されていないんじゃないかと思います。文具好きには登場の衝撃が大きいボールペンだったので、そこでちょっと冷めてしまいました。
後半は正直ちょっと失速気味でしたが、之華を演じた周迅がさすがの演技力だったのと、女の子達の透明感が魅力的で最後まで楽しめました。たとえば尹川が之華の嘘を見破っていたと分かるシーン。嬉しそうな表情から一転、自分に気づいたんじゃなく、「姉じゃないこと」に気づいたのだと悟ったときの之華の失望が、ほんの一瞬の表情に表れていて、切なくなりました。
スマホが戻るまでの短い冬休み、前時代的な「手紙」でのふれあいを通して、輝いていた時代にひととき戻る。すっかり生活に疲れたおばさんにはロマンチックが過ぎる展開でしたが、ラストの時空を越えた朗読シーンはすごくよかったです。