中文熟考

中日翻訳者が綴る日々の記録

12球団ファンクラブ本とアンチ断捨離

台湾が常夏だなんて誰が言ったんだ。

基本的に夏の暑さしか想定していない家の造り。基本暖房がないという思い切りの良さ。
素直で楽天的な台湾が好きで嫁にまで来た私ですが、さすがに「寒い時はいっぱい着ればよい」という単純すぎるリスク管理に憤りすら感じているこの頃です。

しかも台湾ではなぜか一酸化酸素中毒による事故が非常に多く、みんな一酸化炭素を極端に恐れているので、どんなに寒くても窓を開けたがります。ダンナとの攻防のすえ、2センチほど窓を開けて寝ている我が家。自らすきま風を作っているわけですから、そりゃ子供が風邪を引きます。因果応報というものです。

看病に追われるわ寒いわ、ただでさえ心がふさぎ込む事態になっているのに、1週間降り続ける冷たい雨。太陽と床暖房が恋しい。ここ数日ホームシックになりそうな心を奮い立たせて家事と仕事をこなし、寝込む子供の隣で読書して心を温めておりました。ブログもいたずらに更新が滞っているので、ブックレビューでもしてみよう、ということでまずは野球本から。


12球団すべてのファンクラブに入会し、その特典やグッズを分析。視点の面白さはもちろん、10年間で蓄積したデータは球団のファンに対する姿勢を如実にあぶり出していて興味深いことこの上ないです。先日帰国した際に日ハム戦を見るため久しぶりに西武ドームで観戦し、ファンの温かさと行儀のよさに感動したのですが、長谷川氏のつけたファンクラブ通信簿で1位にランクインしているのと無関係ではないでしょう。

著者の長谷川氏とは若いころよく飲みに行く仲だったのですが、「実は僕、自腹で12球団のファンクラブに入っているんです。これを続けることにしたんですよ」とカミングアウトされた時、まだ20代女子だった私は正直ちょっと引きました。自腹で12球団全部。マジかこの人?と。ただ編集者としての立場から見れば、素晴らしい試みだと思いました。誰もやっていないことをやる、という気概に感動もしました。この本が出た時は勝手に感慨に浸ったものです。「12球団ファンクラブ評論家」という肩書きを特許申請してしまう念の入れように、氏の本気を感じたのものです。

この本は既読だったのですが、昨日読んだ一冊を読んで「長谷川さんの本と同じやり方だ!」と思ったので改めて紹介しました。その一冊というのが、台湾に来てから友人になった編集者さんに勧められて読んだ、みうらじゅんの仕事術本。


〝あの〟みうらじゅんが仕事術を公開、しかもやり方としては至極マトモだったという衝撃はあるのですが、自分の好きなものから「ない仕事」を作り出す方法は「12球団ファンクラブ」と同じアプローチです。物やデータというのは、おぉ、と人を驚かせる量が集まった時に力を持つものなのだとつくづく思いました。

私はライターとして、ここまで(いい意味で)クレイジーに「好き」で押したことがないので、自分は「ない仕事」を作り出す力が弱いんだよな、つまり企画力低いんだよな、と凹みかけていた時です。あとがきに出てきた「アンチ断捨離」というコトバに私の目は釘付けになりました。

結局私は、価値基準がないものに肩入れし、そういうものを「マイブームだ」と言って買い、この先もずっと「アンチ断捨離」の余生を送るのでしょう。

アンチ断捨離ーーーーー。

この本を読んでいる間、本筋とは別のところで心がザワついていた理由がわかりました。「この大量に買い集めたゆるキャラグッズとか、いやげ物とか、どこに保存してあるんだろう。。。」何の役にたつのかわからないもので溢れた部屋を想像するだけでも怖い。私だったら途中で絶対やめるし、捨てる。でもこの本で言うところの「ない仕事」は、すべて大量のグッズ集めから生まれている。。。

実を言うと、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が「整理は創造」と言ったのに感銘を受け、ここ数年せっせと断捨離していた私。海外在住で日本語の本を気軽に買えなくなったこともあり、10年前の私が「紙をめくらずに読書と言えるか!」と全否定していた電子書籍にも手を出しました。今思えばそこに主婦として、家をスッキリさせたいという至極まっとうな気持ちも働いていたと思います。

断捨離をした結果、たしかに頭も書棚も整理されました。でもあまりにも整理しすぎて、何かが生まれる芽すらも摘んでいたのではなかろうか。。。「アンチ断捨離」というコトバを見た瞬間、その現状に気づかされたのです。そうだ、そもそも私はクリエイティブディレクターじゃなかった!!

ふたたび野球本に話を戻すと、このジャンルは本当に読みたい人しか読まない、野球ファンでも読まない人は読まない分野なので、電子書籍化されていない本がほとんどです。「ダルビッシュ有の変化球バイブル」のように電子化されていても図解などが見にくくて、結局紙の本を買うことも多い。どんなに断捨離したくても捨てられないので、自然と書棚の野球本率が高まっていく。書棚にあって目につくからこそ、それがちょっとすごい量だからこそ、私は今日まで野球のことを飽きずに考えてこられたのではないか。。。

断捨離してる場合じゃない!と、まずは資料を机に山積みにしてみたりした年明けでした。今年は無駄をもっと愛そう。

ちなみにみうらじゅんが仕事術を公開しているからといって、フツーの人が明日から取り入れられそうな術を伝授したハウツー本とはまったく毛色が違うことを最後に書いておきます。やはり氏の着眼点と言葉選びのセンスは次元の違うレベルにあり、マイブームへの没頭と冷静なプレゼンのバランスは、(いい意味で)精神分裂の域です。いくら奥義を見せてくれようと、「やっぱりみうらじゅんは変。」という結論に至った、いたって凡人の私なのでありました。