なんとなく疲れた時、手に取るマンガってありませんか。
私の場合、そういう時は「クッキングパパ」一択です。
読んだことがない人に一言で説明すると、荒岩一味という料理好きのサラリーマンが、人生のすべてを料理で解決する神マンガです。
ある時は会社を揺るがすトラブルを解決し、ある時は傷ついた老人の心を癒し、またある時は若者の成長や恋愛を後押ししたりする。すべて料理ともてなしの心という100%の善意だけで!それで単行本155巻まで続いていることにある種の脅威を感じる、いやゆるお化け作品なのです。
「クッキングパパ 荒岩家の謎(澁谷玲子)」という出版元の講談社から出ているオフィシャル謎本も、何度も何度も読んでいます。
といっても駅の売店で、コンビニで、見つけるたびに買ったり読んだりして、自分で単行本を揃えたことはなかったのですが、電子書籍で発売されたのを機に50巻まで大人買いしました。自分の中では50話までに「クッキングパパ」の面白さが凝縮されていると思ったからです。
各話は中心となる登場人物とその人にまつわる料理レシピがセットになっています。
初期は荒岩の部下でお調子者の営業マン田中と、内勤OL夢子という2人がたびたびエピソードの中心となります。レギュラーというやつね。
この田中がけっこうなクズ社員なのだが、大食いという一点で荒岩にとって永遠に離れがたい存在。夢子は妻帯者の荒岩に密かな恋心を抱き、料理好きな上司を支えるという、これもなくてはならない存在です。
これからクッキングパパを読む人にはネタバレになってしまうのですが、50巻までにこの2人が結婚し、子供が生まれるという大きな展開が待っています。2人が所帯を持ってすっかり落ち着いたことで、綿々と続いてきた物語がいったんひと段落するわけです。
荒岩にとって料理の次に大切なのが愛する妻と子供なのですが、第1話では10歳だった荒岩の息子・まことも50巻では中学生になり、家族旅行より友達との約束を優先するほど大人びてきます。妹のみゆきがまだ小さいとはいえ、最初の子供が手を離れ、かわいがってきた部下がどっかりと家庭を築き、荒岩の心配も料理の出番も少しずつ減っていくのです。
職場と家庭を料理と包容力で切り盛りするスーパーサラリーマンが主人公のマンガとしては、ここまでが一番面白くて、あとは惰性で…いや、読者のずっと続いてほしいという願いでプラス100巻もの大作になったのだろう。…と思っていました。無料公開の51巻を読むまでは。
コロナ禍で不要不急の外出ができなくなった我らのために、2020年に講談社が「クッキングパパ」1000話を無料公開してくれていたのです。情報弱者なもので、気づいたのが終了日だったのですが、これを機にずっと読んでいなかった「51巻以降」の扉を開いて、面食らいました。
51巻に入るとものすごい急展開だったのです。
これまで荒岩は料理好きを隠していました。マンガがスタートした80年代は、男が料理するなんて恥ずかしいという時代で、奥さんが作ったとか店で買ったとか言ってごまかしていました。まず51巻でそれが全部バレます。なんと!時代が変わってる!
これまでのさりげないサポートとは違い、料理好きを公表した荒岩が「もてなしたい」という欲望をのびのびと叶え始めるのです。
料理のスケールも一回り大きくなります。とても一般家庭のガスコンロに載るとは思えない業務用の特大鍋で、洋食屋顔負けの本格コンソメスープ作っちゃってるよ!しかも2日がかりで!しかも二日酔いなのに!
さすがうえやまとち先生、連載を続けるからには斜め上を行く展開が待っていました。種子島ちゃんと工藤という部下の恋愛ライン第2弾もちゃんと進行しているし、まったく惰性とかではなかった。すいませんでした。
それにしても自粛をきっかけに「51巻以降」の魅力に気づくとは。どんな時でもいいことはあります。そしてクッキングパパと愛情込めた料理は、どんな時も裏切りません。