中文熟考

中日翻訳者が綴る日々の記録

台湾と王さんと日本野球と。

11月は仕事が重なったので、12月は子供サービスをしようと決め、キッズを家に招いてクリスマスパーティーをしたり、動物園に連れて行ったり、とにかく毎日せっせと子供の好物を作って、食卓で仮面ライダーのウンチクを(我慢して)聞いていました。仮面ライダーシンは怪力なんだそうな。

そういう年末も悪くないのですが、気づけば11月のジャイアンツOB戦についてしたためていなかった。。そしてアジアウインターリーグも終わっていて、陽岱鋼が巨人入りしていた。。時が過ぎるのは早いですね。

もちろん試合は行きました。OB戦は中畑さんに無駄に話しかけ、駒田さんの背中を隠し撮りするなどの暴走で周囲の顰蹙をかいましたが、だって夢のようなメンバーだったんですよ!!斎藤、槙原、桑田って!!そして先発のマウンドには引退から10年経つ桑田(あえて呼び捨て)。球速こそ100キロ前後だったものの、現役時代とまったくフォームが変わっていなかったので、見ていて高校時代に戻ったような不思議な気持ちにさせられました。桑田さんは急に引退宣言された記憶があります。徹夜明けに小田急線に飛び乗ってジャイアンツ球場に駆けつけ、背中真っ黒に焼けたなぁ。懐かしい。女子高生のころ制服で3日に1度神宮球場に通っていたのも、まあそれでフラれて、当時本気で野球とモテのどっちを取るか悩んだのも、今となってはいい思い出です。

直訳すると「台日伝説のオールスター戦」

こちらが当日250元で販売されていたパンフレット。中身は名鑑というほどでもない、簡単な選手紹介なんですが、ほとんどは有名すぎて紹介するまでもない選手ばかりなので、無料で配ってもよかったんじゃないですかね。


引退後の一言メモはけっこう面白いです。元木さんはバラエティ番組で活躍していることも書かれているし、ラーメン屋さんを開いたことなんかも。そしてOB戦の発起人であり目玉である王貞治さんのところは、「OH桑はこれまで開催されたOB戦で50代になってもホームランを放っていて、野球ファンの中では永遠のホームラン王だ」と書かれています。「OH桑」というのは「王さん」の当て字です。「桑」は中国語で「サン」、郭泰源さんを「KAKU桑」と言ってみたり、こうやって日本風に読むことがよくあります。

王さんの一本足打法を生で見るのは私も初めてでしたので、感動しました。でももっと感動したのは、スタンドのファンが全員立ち上がって、ヒューヒューと歓声をあげているのを見たときです。きっとどれほどのスターでも、日本人ではここまでの興奮を与えられないと思います。同じ台湾人として特別な思いがあるのだな、と実感しました。

戦争が終わって日本が引き上げた後の台湾の人たちにとって、王貞治の活躍はどのように映ったのだろう。そんなことにも思いを馳せました。台湾の歴史を知ると一層感慨深くその気持ちが想像されるのです。OB戦を見に来たファンや関係者の方に王さんのことを聞くと、「神様のような存在」と口を揃えるのも印象的でした。もちろん実績やご本人のすばらしい人格も「神様」たるゆえんでしょうが、遠くなってしまった日本から断片的に報道される王さんの姿は、より鮮やかに輝いて見えたのではないか、そんな風に思います。

足跡をまとめたカードファイル。当日会場で配られました。

さて、王さんの感動から数日でアジアウインターリーグが開幕。台中開催なので、もっぱらCPBL TVでの観戦となりましたが、NPBイースタン選抜と台湾プロ野球選抜の試合は生観戦しました。我らがベイスターズから参加した野手陣(特に網谷圭将くん)はすこぶる調子がよくてニヤけていたのですが、そこで熱狂的なベイスターズファンの台湾女子と知り合いました。聞けばファンになったのは2010年頃とのことだとか。

ちょっと待った。横浜ベイスターズはその頃魔の5年連続最下位まっしぐら、どん底の時期だったはずです。DeNAからやってきた敏腕社長によってオシャレにイメージアップし、そんな暗い歴史などなかったかのようにクライマックスシリーズで盛り上がった今年のベイスターズですが、ホッシーの笑顔むなしきあの迷走は忘れられない。よりによってそんな時になぜファンになったのでしょう。驚く私に彼女は言いました。「台湾人選手がいたから」。

そうなんです。その頃ベイスターズにちょっとした台湾人選手ブームが起きていたのです。2009年に王溢正(ワン・イイゼン/現ラミゴモンキーズ)が入団。2011年に陳冠宇(チェン・グァンユウ/現千葉ロッテマリーンズ)、2012年には阪神から鄭凱文ジェン・カイウン/現兄弟エレファンツ)を獲得しています。残念ながらみんな成績を残せずにベイズターズを去っていくのですが。。。最初はそれがきっかけだったけれど、その後ベイスターズの魅力にどんどんハマっていき、台湾人選手がいない今も応援し続けているということでした。ハマっていった気持ちはすごくよくわかるよ、うん。考えてみれば当然のことながら、球団の魅力以前に「そこに台湾人選手がいる」ということが、台湾人にとって特別なことであり、ファンになる大きな動機となるのですよね。


翻って巨人入団が決まった陽岱鋼であります。台湾では陽選手をきっかけに北海道日本ハムファイターズのファンが激増しました。ましてジャイアンツは「OH桑」が活躍した、台湾人にとってすでに特別な球団なのです。しかも未知数の若手を獲得したのとはわけが違います。看板選手に育て、優勝で送り出してくれた日本ハム以上のことを、こちら台湾ではジャイアンツに期待しているわけです。高橋監督、頼みますよ。王さんがつないできたジャイアンツと台湾の深いつながりを、陽選手はさらに発展させていけるのでしょうか。非常に楽しみな2017年のシーズンを、首を長くして待つ私なのであります。